2015年10月30日金曜日

捨てられた僕は。『いなくなれ、群青』

河野裕『いなくなれ、群青』新潮社、2014年。


新潮文庫NEXより昨年刊行されたキャラクターノベル。
出版社と書店がかなり力を入れて売り出したこともあり、一度は表紙を目にした人も多いと思う。
そして、つい最近、シリーズ二作目である『その白さえ嘘だとしても』が発売された(お茶の水の三省堂でうず高く積まれていたのは圧巻だった)。

「キャラクターノベル」を標榜するだけあって、主人公の七草をはじめ、各キャラクターの「キャラ」が丁寧に作り込まれている。今回は七草と真辺宇由にスポットが当てられているが、巻を追うごとに他のキャラクターの掘り下げが進められることに期待したい。

さて、「高校生」、という生物的に子どもから大人へと移行していく時期は、人間的にも一大転機を迎える時期でもある。
表面をなんとか繕いながら、内面の激動とどう折り合いをつけていくのか。
日本の多くの16歳から18歳は両親や学校に守られながら、この繊細極まりない時期を過ごす。
現在、日本には差し迫った外患は無い。無いことになっている。憲法違反の法案を巡って国会や各地で紛糾しているが、基本的には平和な日常を過ごせている。だから、内面のドロドロとした感情に向き合わざるを得なくなるのだ、と思う。
誰もが抱える、もやもや、いらいらした感情を勉学やスポーツ、あるいは学校行事に上手く昇華できれば万々歳、スクールカーストの最下層は免れる。
ここでうっかり妙な趣味――マイナーなもの――にハマってしまえば、学校生活のと雲行きがちょっとばかり怪しくなる。……正直、その時々のクラスメイトによるのだけど。このへんの話は、朝井リョウの『桐島、部活やめるってよ』が実に上手く描いているので、ここではこれ以上言うまい。

「高校生」。
まだ高校生になってないお嬢さんや坊や、なんだか変に期待してない?
今まさに高校生の君、毎日充実してる?
かつて高校生だったあなた、もう二度と戻れない三年間は、楽しかったですか?
私は、どうだったかな。今となっては最高の日々だったと思っているけど――。


ところで、この作品で一番印象的だったのは、「透明感」と「色」だ。
だからかな、百万回生きた猫のトマトジュースが、やけに鮮やかで印象的だった。まるで、血のようで……。


以下ネタバレ。


そろそろ内容についてコメントしようか。

「階段島」の住人は、捨てられた存在である。
成長の過程で、自分自身に「いらない」と切り離されてしまった人格の一部分。
だから、登場人物は皆、どこか過剰なのだ。尖っている。幸か不幸か、島の住人は、お互いの過剰な部分を「個性」だとして受け入れている。そこに少しだけ救われた気持ちになる。それと同時に、ラストの七草の心情を考えると、果たして彼らは幸せになり得るのだろうか、と不安になる。このシリーズの「ハッピーエンド」は、一筋縄ではいきそうにない。まあバッドエンドは好物なのでどちらでも構わないけど……。

それにしても、「キャラクターノベル」とはよく言ったもので、いかにキャラを立てて物語を紡いでいくのかが楽しみである。「キャラクターありき」とは言わないまでも、キャラクターが最大限魅力的に動けるような作品になって欲しい。


2015年10月27日火曜日

海老名市立中央図書館

10月1日にリニューアルオープンした、海老名市立中央図書館(神奈川県)に行ったときの感想。

TSUTAYAなどを運営するCCCと手を組み、サービス向上を図ろうとしていたが、一番肝心な選書で揺れている、との情報を得たので、冷やかしに行くことにした。10月7日に行ったきりなので、いろいろ曖昧です……。


まずは入り口。
ライセンス契約を結んでいるであろうスターバックスを左手に、正面や右手にはTSUTAYAが売っている雑誌をメインとした書籍と雑貨がドーンと陳列。ここは図書館と言うよりは書店なので、ガヤガヤとした雰囲気。子連れの人が気軽に来れそうだけど、海老名市民の税金で賄われているであろう公立の建物・サービスで商売っ気を露骨に出していることには違和感を覚えました。
書籍は、比較的新しい単行本や文庫が中心。あと雑誌の最新号。

2階に上がれば、もう図書館。
ただし、場所によっては1階の喧騒やBGMが響いてうるさい。

3階は広い学習スペースがある。席数は数えていませんが、公立図書館にしては多いのかな。
夕方になると、制服姿の高校生でいっぱい。部活の道具を引っ提げた子が多かった印象。
元々図書館を活用する土地柄なのか、新しいものができたのでとりあえず見に来たのかは不明。まあ民間業者の手を借りるくらいだから後者だろうな……。
ひとしきりキャアキャアギャーギャー騒いだ後は、「席がないねえ」とあっさり帰った模様。完全に高校にいるときのノリだった。私は真面目に勉強していなかったし、懐かしかったので、生暖かく見守っていました。本当はTSUTAYAの制服を着たスタッフだか司書さんだかが注意すべきなんですけどね。
営利団体だと注意しにくいのかな、気付かなかっただけかな。この対応は少し気になりますね。

4階は「こどもとしょかん(キッズライブラリー)」。
プラネタリウム跡地。
父子が仲良く電車の模型と一緒に写真を撮っていて微笑ましかったです、まる

そして、地下1階。
秘密基地みたいでした。小説がずらっと並んでいて圧巻。雰囲気が良い。

全体的な感想は、「取り組みとしては面白いが、長続きするかは怪しい」。
既に散々指摘されていることですが、書籍の分類法が独特で、図書館に慣れている人は戸惑うでしょう。一応、検索機はありますが、そういう問題でもないような。若者はすぐに順応できそうですが、図書館の利用者はシニア層が多いことを考えると、その辺どうなんでしょう。

2015年10月26日月曜日

哲学的ゾンビの憂鬱

挨拶的な何か、

木枯らしが吹き荒ぶ季節になりましたね。
西の空がなんとも言えず美しい。
沈みゆく日が、雲を淡い桃色に染め、山は影に、空は水平線から大きな虹のような色の七変化を作り出している。
この文章を書き終える頃、もう一度西方を眺めれば、日は山影に沈み、僅かに残っている橙色がどんどん暗闇に飲まれていく。
……お久しぶりです。前回の記事は残暑の厳しい頃でしたね……。

あと近況とか

最近、ブクログなるものを始めてみました。
こちらに記載していて本の感想をお引越しさせるか検討中です。
でも、このブログから本の話題を取ったら何にも残らないので、本以外の記事が書けるようになるまでは保留かな……。

哲学的ゾンビは何を知っているのか

「哲学的ゾンビ」という思考実験をご存じだろうか?
……ご存じ、ないのですか!?
彼/彼女こそ、「物理的化学的電気的反応としては、普通の人間と全く同じであるが、意識(クオリア)を全く持っていない人間」、哲学的ゾンビちゃんです!

こらー!真面目にやランカ!

……さて。
「哲学的ゾンビ」、にちゃんねる哲学板あたりで取り上げられているのを偶然目にして知りました。
ちょっと心に引っ掛かることがあったので、ググったり飲茶氏の書籍をパラパラ捲ったりしてみることに。
この思考実験で重要なのは、意識(クオリア)の有無。
そして、その意識(クオリア)は人間の機能的には不自然である、らしい。
意識がなくても、人間は社会生活をきちんと送れるという。例えば、「抓られた」ら「痛いと感じる」という肉体的感覚、「格好良い先輩とお話しできた」ら「女友達とキャーキャー騒ぐ」という反応。
「美しい夕日を眺め」て、「綺麗と呟く」あるいは「誰かに伝えようと文章や絵で描いてみる」。
これらは人間様の特権でもなんでもなく、将来精密なロボットが再現できそうなことだ。もちろん、そのロボットに意識はないだろう。

そもそも。
私は誰?アイデンティティって何?私のオリジナリティって?
人間は、生まれる前から、ある程度どう成長するか、心身共に予想が付く生き物だ。
ホモ・サピエンス・サピエンスそのものが内包する特徴。両親・祖父母をはじめ親戚からの遺伝。そして、育つ環境。
私の場合、生まれた時は父方の親戚によく似た見た目をしていた。
中学から高校にかけて、人並に反抗期を迎えた。多少、暴力的な衝動があり、夜な夜な自室で枕を殴りつけた。ひょんなことから、祖母が若い頃、怒り狂って皿をぶん投げていたことを知った。激しい気性は血筋らしい。
知らない人に対して無意識のうちに猫を被ってしまう性格も祖母譲りだ。大したことが無くても大袈裟に騒ぎ立ててしまう性分、学問好きな傾向、運動好き、etc.どれも「すみかのオリジナル」ではなく「親戚の誰かと似ている」。
冷静に考えれば、何にも依らない、100%のオリジナルである人間なんて存在しない。それは、人間ではない。
でも、私という存在のアイデンティティは何かと問われると、一気に不安定になる。
だって、先に挙げたような特徴(=情報、データ)をぎゅっと詰め込んだヒト型の何かが現れたら。
私とソイツのどちらが本物か、分からないじゃないか。

哲学的ゾンビの問題について考え始めると、背筋が寒くなる。
考えれば考えるほど、世界が、自分が、不確かな存在となっていく。

ところで、哲学的ゾンビは、ゾンビ自身が「意識(クオリア)を持たないこと」を知っているのだろうか?
例えば、高校生、人間だったら思春期真っ只中のゾンビちゃんに、
「実はあなたは哲学的ゾンビで、自分の意識(クオリア)なんてないのよ」
と言ったら、どうなるだろうか?
戸惑うか、泣き出すか、鼻で笑うか、それとも、悩み始めちゃって「鬱」になるか。
……哲学的ゾンビ狩り、なんてことがあったらやってみたいなあ。




<参考文献>
飲茶『哲学的な何か、あと科学とか』二見書房、2006年。

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